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名古屋高等裁判所 平成3年(ネ)525号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  申立

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の土地建物につき、それぞれ昭和六三年六月三〇日名古屋法務局熱田出張所受付第一九八二一号をもってなされた根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

主文同旨

二  主張

当事者双方の事実上、法律上の主張は、左に付加するほかは、原判決事実第二に記載されたとおり(原判決二丁表四行目から六丁表七行目まで)であるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

譲渡担保は、対外的には不動産登記簿の記載のとおり所有権者として取扱われるばかりでなく、控訴人、田口浄間の本件譲渡担保設定契約に際しても、所有権移転の原因を譲渡担保とせず、売買としていること、本件根抵当権を消滅させるため買主である控訴人が滌除を行うことを右契約の特約として定めていたこと、被控訴人が請求原因3の根抵当権実行通知をなしたのは、控訴人を滌除権者として取扱うよう執行裁判所からの指示を受け、これに従ったものであるが、被控訴人はたまたま本訴係属中に譲渡担保のための所有権移転であることを知り、主張を変更したこと等の諸事情を考慮し、かつ競売実務において競売物件の権利関係は登記簿上の登記原因を基準として画一的に処理すべき要請があることを考えれば、被控訴人の主張は不当である。

(被控訴人の主張)

譲渡担保権を取得したにすぎないものは、登記簿上の所有権移転の原因が売買となっていても、民法三七八条所定の抵当不動産に付き所有権を取得したる第三者といえないから、滌除権者となり得ない。

譲渡担保権者は、目的不動産の担保の目的の範囲内でのみ所有権移転がなされるにすぎず、担保目的以上に権利の行使ができないところから、停止条件付第三取得者以上の立場にはなく、民法三八〇条の趣旨からいって、条件の成否未定の間は滌除をなし得ないことが明らかである。

控訴人が滌除通知をなした平成元年一〇月四日当時、田口浄の債務の弁済期(同年一二月末日)も未到来であり、担保不動産を控訴人が評価した事実も、また確定的にその所有権を帰属させる旨の意思表示もなされていなかったのであるから、控訴人は所有者とはいえず、滌除権を有しない。

また、被控訴人は平成元年九月一四日付書面で控訴人に対し根抵当権実行通知をしたが、これは控訴人が通知を受けてから一か月以内に確定的に所有権を取得して滌除権の行使をなす機会を与えるためであり(所有権移転請求権仮登記権利者に対するものと同じ)、これに対し控訴人が所有権を確定的に取得したのは平成三年六月七日であった。右の経緯からみても控訴人の平成元年一〇月四日到着の滌除通知は、所有権者のなしたものとはいい難い。

三  証拠(省略)

理由

当裁判所も、控訴人は本件不動産について譲渡担保権を有していたにすぎず、被控訴人に滌除通知をなした平成元年一〇月四日当時、田口浄に対する控訴人の債権の弁済期は未到来で、かつその実行手続もなされていなかったので、目的不動産の所有権者であるといい得ず、滌除権の行使は効力を生じなかったため、本訴請求は理由がないものと判断する。

その理由は、左に付加、訂正するほかは、原判決理由一乃至三の設定説示(原判決六丁表一一行目から九丁表一〇行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決六丁裏二行目「すなわち、右の各事実によれば、」を「そして右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一、第二号証、第一三号証の一、二、官署作成部分につき成立に争いがなく、その余の部分について成立に争いのない乙第七、第九号証によりその成立を認め得る甲第九号証を総合すると、」と改める。

2  原判決六丁裏九行目「状態であったこと」の後へ「、被担保債権については債務者柿島高司、連帯保証人田口浄から弁済期日の平成元年一二月三一日までに弁済がなされなかったので、控訴人は平成三年六月四日付、同月七日到達の書面で、田口に対し本件譲渡担保権を実行し、本件不動産の所有権を確定的に控訴人に帰属せしめる旨及び支払うべき清算金はない旨を通知して、その実行手続を行ったこと、これにより漸く控訴人が確定的に本件不動産の所有権を取得したこと」と加える。

3  原判決八丁裏八行目「であるところ、」の次へ「登記簿上所有権移転原因が売買とされ、譲渡担保であることが表示されておらず、そのため公示の面からみて画一的な処理に欠ける結果となる憾みがあるとはいえ、」と加える。

4  原判決八丁裏一〇行目「付与するのは、」の次へ「民法三八〇条で条件の成否未定の間の停止条件付第三取得者が滌除をなし得ないことと対比しても、」と加える。

5  原判決九丁表七行目の次に改行して左のとおり加える。

「なお、控訴人は、被控訴人が前記抵当権実行通知を控訴人に対してなしたのは、競売裁判所の指示によるものであり、この時点においては控訴人を滌除権者として扱っていたものであること、また被控訴人は本訴の途中までは控訴人を適法な滌除権者であるとして、応訴してきたのに、俄かに控訴人が滌除権を有しないと主張することは許されない旨主張する。しかし、前顕各証拠及び弁論の全趣旨によると、被控訴人は、当初登記簿上所有権移転登記が田口から控訴人になされ、しかもその原因が平成元年七月六日売買となっていたことから、控訴人を第三取得者として右実行通知をしたが、その後関連訴訟事件において控訴人らから提出された書証、特に控訴人と柿島、田口間の債務弁済譲渡担保契約書、金銭消費貸借契約書、田口の陳述書等を検討して、控訴人が譲渡担保権者にすぎず、滌除の通知がされた時点では弁済期も未到来で、譲渡担保の実行手続もなされていないことを知り、右主張に及んだものであることが認められ、被控訴人が訴訟上、控訴人が所有権者であること、滌除権を有することを自白したものではないから、右主張が許されないと解することはできない。」

以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がないから、原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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